目次リンク: 平成29年度(前期後期)、平成30年度(前期後期

平成29年度前期のスケジュール

教室はL204で、金曜日の4限(15:10〜16:40)に開催します。

第1回 4月28日(金)

TaLCSの概要の説明、発表者のサインアップ

第2回 5月12日(金)

L1とL2能力が話者のものの見方に与える影響について ―英語母語話者と日本人英語学習者の比較― (堀尾佳菜, M2)

英語は名詞の可算・不可算を文法的に区別するのに対して、日本語にはそのような区別がない。このような英語と日本語の言語形式の違いが英語話者と日本語話者のものの見方に影響を与えているという指摘が先行研究でなされている。本研究では、英語話者と日本語話者のものの類似性判断の傾向の比較に加えて、日本人英語学習者をL2英語能力別に比較することで、言語形式の違いが話者のものの見方に与える影響について新たな知見を得たい。今回の発表では、先行研究と本研究の目的を報告し、現時点で考えている研究方法を提示する。

第3回 5月26日(金)

米国英語における言語変種の日本語への翻訳(萩原望, M1)

言語変種は文化的・社会的コンテクストに強く依存する点などから、言語変種を翻訳するという行為自体も文化的・社会的コンテクストに依存すると考えられる。本研究は、米国英語における言語変種を含んだ英語のテクストが、どのように日本語に訳出されてきたかを記述的に分析し、また、翻訳の過程で翻訳者に影響をもたらす言語外の影響をあきらかにすることを目的としている。なお、今回の発表は、さきごろ提出した修士論文の研究計画書について詳述するものである。

第4回 6月9日 (金)【予備日】

上級日本語学習者の口頭発表におけるフィラーについて(蔡瑜, M1)

日本語学習者の口頭発表において、フィラーは話の調子を整える、間をつなぐ、時間を稼ぐなどの働きがある。学習者が使っているフィラーは話す能力への評価にも影響を及ぼすと考える。本研究では、アカデミック場面での口頭発表における母語話者と上級日本語学習者が使っているフィラーを比較することにより、学習者のフィラーの使用実態を明らかにすることを目的とする。今回の発表では、先行研究と本研究の目的を報告する。

第5回 6月23日(金)

L2日本語接触場面における学習者のコミュニケーション・ストラテジーの変化 ―会話者間の関係性による影響―(牟鵬程, M1)

コミュニケーション・ストラテジーは、実際のコミュニケーション場面において、第二言語学習者と母語話者の言語知識の欠陥を補うために使われる一種の試みと考えれる。本研究では、会話者間の関係性(第二言語学習者と母語話者の教師、第二言語学習者と母語話者の学生)に着目し、その関係性の変化によるL2日本語接触場面における留学生のコミュニケーション・ストラテジーにはどのような変化があるかを探り、また、そのような変化の裏にある学習者個人の要因を探究する。今回の発表では、先行研究と研究課題を提示し、調査の設計について報告する。

第6回 7月7日(金)

ことばの在り方を究めて:9ヶ月の研究成果の報告(アルビン・エレン, 講師)

7月3日(月)にあった2017年度研究報告会の発表を、一部編集した形で再度発表する。今年の学会発表を3つ挙げ、それぞれの内容について解説する。具体的に、①ある文を聞くに当たって聞き手はいつイントネーションの情報を処理するのか、②日本人英語学習者の「途切れ途切れ」の発音の正体は何なのか、そして③欧米だけでなく日本の状況の中でも非母語話者への「訛り」の評価が教師より学生の方が厳しいのか、という3つのトピックを取り上げる。最後に、その他の現在進行中のプロジェクトを簡潔に紹介する。

第7回 7月14日(金)

児童文学の翻訳にみられる教育的配慮に関する考察(日高優奈, M2)

文学的ポリシステムにおいて周辺部に位置する児童文学は、翻訳される際、大人向けテクストに比べて翻訳者の介入が顕著である。介入の理由として、児童文学を「子どもにとってよいもの」にするという翻訳者や出版社などの教育的配慮が考えられるが、それは文化によって異なり、翻訳を比較することではじめて明らかにされるものであると考える。本研究では、トールモーハウゲンの『夜の鳥 (Nattfuglene) 』を対象に原文であるノルウェー語とその日本語訳・英語訳を比較し、文化によって異なる教育的配慮を明らかにすることを目的とする。今回の発表では、先行研究と本研究の目的、現時点での研究課題について報告する。

平成29年度後期のスケジュール

教室はE411で、金曜日の3限(13:20〜14:50)に開催します。

第1回 10月27日(金)

(発表者のサインアップ)

第2回 11月10日(金)

日本の日本語学校における中国人学習者のモチベーションの変化ー教室内での学習に焦点を当ててー
1:20-1:45 (李暁彤、研究生)

学習者個人が母国と日本という異なる言語環境で日本語を学習する時にモチベーションの変化はあるのかを問題にし、そのモチベーションの変化に影響を与える要因が何であるかを明らかにする。また、変化したモチベーションは学習効果にどのような影響を与えているのかを明らかにしたい。本研究では、教室内での学習の違いを考察し、学習者のモチベーションに影響を与える要因を明らかにし、学習者のモチベーションを高める方法を提案したい。


日本語学習者に対する長崎方言のあり方—終助詞のタイとバイを中心に—
1:45-2:10 (宋潮、研究生)

外国人日本語学習者に向けた一般日本語教育において取り扱われるのは標準語である。しかし、日本の地方都市で日本語を学習する外国の人々は、日本語によるコミュニケーションの場でかなり方言にさらされており、方言が意志疎通の障害になっていることが少なくない。そのため、日本語学習者に対し、方言を理解するための指導が必要だと考えられる。そこで、日本語学習者向けの長崎方言の教材を作成することを最終的な目標に、本研究では、その第一段階として長崎方言におけるタイ及びバイについての指導案を提案することを目的とする。


「~てから」と「~あと」の使い分けに関する一考察―日本語教育への応用を中心に―
2:10-2:35 (甯宸、研究生)

「~てから」と「~あと」は、類似性を持っていると言われている。日本語学習者にとって、両者の使い分けは困難である。これに関し、現在の日本語教材は説明が明確でなく、各教科書の記述にも違いが見られる。本研究は、日本語教育の立場に立ち、「~てから」と「~あと」の意味・用法の違いと指導における留意点を示すことを目的とする。


日本語教育における助詞「たり」の指導のあり方について
2:35-3:00 (陳玉、研究生)

並列助詞と取り立て助詞の用法を持つ日本語の助詞「たり」は、日本語学習者に十分に習得されているとはいえず、とくに取り立て助詞「たり」は日本語教育において軽視される傾向にある。本研究では、先行研究における助詞「たり」に関する記述を確認したうえで、日本語母語話者による助詞「たり」の使用実態を調査し、その用法を整理する。そして、中国で使われている日本語教科書における「たり」の扱われ方を確認する。その結果をもとに、助詞「たり」の日本語学習者への指導方法を提案する。


第3回 11月24日(金)

日本語学習者に対する「のではない」の指導法の提案—日本語母語話者の会話における使用実態の分析に基づいてー
(蔦田実央,M2)

「のだ」文は日本語初級教科書の後半で扱われている。しかし、「のだ」文の否定の形である「のではない」は使用の有無によって意味に大きな違いが生じるにも関わらず、日本語教科書ではほとんど扱われていない。そこで、日本語学習者への指導法を提案するために、名大会話コーパスと雑誌の対談から母語話者の「のではない」の使用実態を調査した。その結果、「のではなくて」の形が最も多く使用されていることがわかった。このことから、「のではない」を導入する際、「のではなくて」の形での指導が妥当だと考えられる。では、「のではない」が否定する部分についてどのように学習者へ指導すればいいのだろうか。今回の発表では、先行研究を参考に「のではない」が否定する部分に関する学習者への指導についての考察を述べる。


中国の日系企業における翻訳者の規範意識-異文化コミュニケーションとしての通訳・翻訳行為を中心に-
(朱藹琳,M2)

「翻訳規範」は、翻訳行動とはどのようなものであるべきかではなく、実際にどのようなものであるかを記述する概念である。こういった考え方に基づき、現実の場面で、特定の社会歴史的文脈のもとで翻訳者がよく採用する選択肢の集合を翻訳規範とされる。本研究では、「特定の社会歴史的文脈」を中国の日系企業に着目している。中国に進出する日系企業において、日中従業員間のコミュニケーションの中、実際には摩擦が常に発生している。このような状況で、文化の狭間にいる翻訳者・通訳者は、いかに行動しているか、またその行動はどのような規範意識に導かれているか、本研究によって明らかにしたいと考える。今回の発表では、先行研究及び現時点での研究結果・課題を 報告する。  ※本稿において、「翻訳者」という言葉は明示のもの以外に、「通訳者」の意味も含むものとする。

第4回 12月8日 (金)

黒人英語の日本語への翻訳にみる発話キャラクタ
(萩原望,M1)

黒人英語とは米国でおもに黒人によって話される言語変種である。映画や文学作品において、黒人英語の特徴を持つ発話が日本語に翻訳される場合、日本の特定の地域方言、もしくは地域方言の特徴を有する「擬似方言」などの非標準的な日本語へと翻訳されることが多い。しかし、すべての黒人英語話者の発話がすべて同じように非標準的な日本語へと翻訳される訳ではない。この研究では、「役割語」や「発話キャラクタ」の概念を援用し、W.フォークナーの『響きと怒り』とZ.N.ハーストンの『彼らの目は神を見ていた』の2つの文学作品を比較分析する。そして、起点テクストにおける発話の非標準性よりも発話者の作品内での位置づけや、目標テクスト読者の自己同一化が翻訳に与える影響が大きいことを明らかにする。

方言と自己同一性―英単語「sauna」の発音を例に―
(アルビン・エレン, 講師)

英語の「sauna」(蒸し風呂)の一般的な発音は ['sɑ.nə](サーナ)であるが、本来はフィンランド語からの外来語で、より原語に忠実な発音[ˈsaʊ.nə](サウナ)もある。フィンランド系アメリカ人が全国で最多のミシガン州アッパー半島では、この語の「正しい」発音に関して意見が分かれて、しばしば議論が白熱する。本研究では、この語の使用実態を記述するために、アッパー半島内外のアメリカ人(計2200人)を対象にアンケート調査を実施した。結果として、アッパー半島の個々の郡の人口のうち、フィンランド系アメリカ人の割合が高ければ高い程、「サウナ」の回答率が高い、という正の相関関係がある事が分かった。また、フィンランド語らしい「サウナ」を使う人はこの語に対して強い感情を抱いていて自己同一性の重要な要素であると報告した一方、英語化した「サーナ」を使う人にはこのような傾向は見られなかった。


第5回 12月22日(金)

L2日本語接触場面における学習者のコミュニケーション・ストラテジーの使用意識
(牟鵬程,M1)

留学生の増加に伴い、彼らが直面しなければならないのは、日本語によるコミュニケーションの問題である。しかし、留学生は自分の母国で日本語の教科書を道具として日本語を学習する際に、教科書に載せている会話のモデル文しか学べない。その結果、実際に日本人母語話者との接触場面においては、留学生が様々な交渉がうまくいかない状況に遭遇し、教科書のモデル文だけでは対応できない。本研究では、L2日本語接触場面における学習者のCSの使用意識に着目し、学習者は自分がよく利用すると判断するCSと、実際の接触場面で利用するCSを比較し、その差異を分析し、学習者がCSをどの程度で意識的に利用できるかどうかを明らかにする。

スピーチにおけるフィラーの使用実態について
(蔡瑜,M1)

フィラーはさまざまな場面で使用されており、円滑なコミュニケーションを進めるために重要な役割を担っている。近年、日本語教育において、コミュニケーション能力が重視されることにより、フィラーを指導することの必要性が論じられるようになってきた。本研究では、今後のフィラーの指導法を考えるための基礎的な資料となることを目指し、上級日本語学習者のスピーチにおけるフィラーの使用実態について記述する。今回の発表では、研究資料の『発話対照DB』から、母語話者10名と中国人日本語学習者20名のスピーチのフィラーの全体像を示し、量的分析の結果を報告する。

第6回 1月12日(金)【L206、2限(10:40-12:10)】

日本におけるイラン映画の翻訳—マルチリンガリズムの訳出方法に関する一考察ー
(大庭夕穂,D2)

マルチリンガリズム(多言語使用)とは、社会、テクストおよび個人における二言語以上の共存と定義される。グローバル化が進む今日、多言語使用の現象はますます増えると予想できる。多言語使用の作品が翻訳される際、その訳出には様々な方法が採られる。単に異言語の存在を示すに留まることもあれば、文字の書体によって差異化をはかる場合や、あえて訳出しない場合もある。翻訳者はST(起点テクスト)とTT(目標テクスト)の文化背景や翻訳の目的を考慮し、異なる手法を選択すると考えられる。本発表では、イラン映画『少女の髪どめ』から関連場面を抽出し、視聴覚作品における多言語使用の実態と訳出手法の例を提示する。異なるTTを適宜比較し、テクスト外の要素とも関連付けて訳出手法の妥当性や問題点を論じる。実例分析に先立って、日本におけるイラン映画の位置付けや変容する翻訳過程を紹介したい。

留学生の日本語コミュニケーション能力の現状と学習意欲—英語プログラムを通じて来日した中国人留学生を焦点に—
(楊捷,研究生)

本稿では、「英語による授業のみで日本の学位が取得できる」という英語プログラムを通じて来日した中国人留学生に焦点を当て、その学生たちの日本語コミュニケーション能力の現状と留学経験によっての能力の変化、日本語能力向上の達成感、日本語学習意欲の変化、日本語学習意欲を高める要因を調査することにより、この集団の留学生の日本語学習の現状を把握して、更に学習意欲を高める方法を探る。

第7回 1月26日(金)【L206、2限(10:40-12:10)】

中国人日本語学習者の「慰め」行為に関する語用論的研究
(高琳, M2)

今のような競争が激しい時代においては、ストレスがたまって、悲しみや不安など何らかの負の感情を持ちやすく、精神的や肉体的に問題を抱えるようになることも多い。したがって、ある段階で負の感情を解消させる必要がある。落ち込んでいる際に、友達や家族などから適切な表現で支えてもらえると、感情が柔らぎ、親しい人間関係も保ちやすいのではないだろうか。ただし、それが不適切な行動だと、慰められる側を余計につらくさせ、人間関係を悪化させる可能性があるため、「慰め」行為をコミュニケーション上の方策という点から分析し、状況や人間関係などによって用いるべき適切な表現を知る必要がある。異文化間コミュニケーションで生じる問題の解決を目指し、ポライトネス理論に基づき、日本語母語話者、中国人日本語学習者、日本語学習未経験の中国人を対象とした「慰め」表現を分析した。それぞれにどのような「慰め」表現が現れるか、その「慰め」表現は語用論的に適切であるか、どのような配慮表現が使われるのか、母語からの語用論的転移があるか、学習者がどの場面でどのような誤りを犯すのかに焦点を当てることで、日本語母語話者、日本語学習者、非日本語学習者の共通点と相違点を探ることを目的とした。

平成30年度前期のスケジュール

日時:金曜日3限(13:20-14:50)

場所:L206

第1回 4月27日(金)

TaLCSの概要の説明、発表者のサインアップ

第2回 5月11日(金)

発話ストラテジーから見る留学生の意識的・無意識的使用
(牟鵬程、M2)

留学生の増加に伴い、彼らが直面しなければならないのは、日本語によるコミュニケーションの問題である。 本研究では、日本人母語話者との会話の接触場面における留学生のコミュニケーション・ストラテジーの使用、特に発話ストラテジーの使用実態に着目し、質問紙調査による留学生のコミュニケーション・ストラテジーの使用意識、会話実験における留学生の使用実態に基づいて作られたフォローアップ・インタビュー調査を実施することにより、留学生の発話ストラテジーの使用実態、発話ストラテジーの意識的・無意識的使用がどの程度できるかを明らかにすることを目的とする。

第二言語習得におけるインプットとアウトプットの重要性
(劉雨、M1)

第二言語習得の過程に置いて、インプットは習得プロセスのスタート地点とされており、非常に重要である。中国における外国語教育は主にインプットを中心に行われている。その結果、学習者のコミュニケーション能力または作文能力が著しく低いため、インプットだけでは、第二言語習得が起こるには不十分だと考えられる。今回の発表では、中上級学習者に対する日本語教育におけるアウトプットの重要性を紹介する。

第3回 5月25日(金)

中国人日本語話者の会話での否定的評価表現に関する考察―表現の方法と発話の機能から―
(王貝寧、M1)

否定的評価は日常会話によく出たものであるが、母語話者がそれを用いる場合、対人関係を悪化させるという点を恐れ、その使用に慎重であり、親疎関係などを十分に考慮していると思われる。一方、中国人学習者は母語話者との接触において、母語の干渉や親疎関係や対人関係などに十分考慮していない場合もあり、相手を無意識的に不快にさせてしまう場面があると考えられる。そこで、本研究では、中国人日本語話者の否定的評価の表現と機能を取り上げ、特には雑談の場面で、相手との親疎関係の違いにより、どのように使用しているのかを調査し、使用現状を明らかにし、①外国人学習者の否定的評価の特徴はどうなるのか ②母語話者の特徴とどのような差があるのか ③そのような差が会話にどのような影響を与えたのかとの三つの問題を明らかにすることを目的とする。

中国人日本語学習者の「言いさし」表現の習得について―「けど」文を中心に―
(楊夢琳、M1)

日本語を第二言語として学習して始めてから、自分自身と周りの学習者が「言いさし」表現をよく使っていることに気がついた。母語話者は発話の状況、相手との関係により、話し手の意図を「察する」ことができるが、学習者にとって、そのような「言いさし」文の産出と理解が困難である。本研究は、中国人JSL学習者の「けど」類「言いさし」表現の使用実態はどうなのであろうか、そのような「けど」文が談話に生じるニュアンスを正しく理解できるだろうかという問題を中心に行っている。

第4回 6月8日 (金)

日本の日本語学校における中国人学習者のモチベーションの変化ー教室内での学習に焦点を当ててー
(李暁彤、M1)

学習者個人が母国と日本という異なる言語環境で日本語を学習する時にモチベーションの変化はあるのかを問題にし、そのモチベーションの変化に影響を与える要因が何であるかを明らかにする。また、変化したモチベーションは学習効果にどのような影響を与えているのかを明らかにしたい。本研究では、日中教室内での学習の違いを考察し、学習者のモチベーションに影響を与える要因を明らかにし、JSL環境の学習者のモチベーションを高める方法を提案したい。

「シテから」と「シタあと」の使い分けに関する一考察―日本語教育への応用に向けて―
(甯宸、M1)

「シテから」と「シタあと」は、類似性を持っていると言われている。日本語学習者にとって、両者の使い分けは困難である。先行研究において、両者の相違点は研究者によって見解が異なる。このことは、各教科書の記述が異なることや、説明が不明瞭であることに関連があり、学習者の混乱を招く恐れがあると考えられる。そこで本研究は、日本語教育の立場に立ち、「シテから」と「シタあと」の意味・用法の違いと指導における留意点を示すことを目的とする。今回の発表では、先行研究、本研究の目的と研究方法を報告し、現時点における量的分析の進捗状況を発表する。

第5回 6月22日(金)

一人称自伝小説における語り方と心理的距離の関係
(和田大輝、M1)

研究テーマは、一人称自伝小説において、語り手としての「私」が自らの過去の体験をどのように再現し語るかを考察することである。自伝小説は、語り手が過去の様々な体験を回顧的に再構築しながら語る形式の小説である。私は一人称自伝小説の中で再現されたさまざまな体験を読んでいく中で、語り手が持っている心理的な印象を、無意識のうちに共有することがある。語り手が抱く心理的な印象が読者に伝わる理由は、語り手の心理面が言語形式に反映され、体験により語り方が変化しているためであると思われる。本研究では、二つの「私」の間にみられる心理的な距離関係に注目しながら、自伝小説の語りの技巧の一端を追及していきたい。

日本の大学に在籍する中国人留学生の口頭運用能力がWillingness to Communicateに与える影響
(楊捷、研究生)

Willingness to Communicateとは自らコミュニケーションする意思で、WTCの高い学生は自らコミュニケーションする機会を探し口頭能力の向上は期待できる。WTCがなければ学生の口頭運用能力の向上は難しいであろう。WTCは口頭運用能力を影響する。本研究では逆のパターンを取り、口頭運用能力のレベルはWTCを影響するのか、影響するならいかに影響を与えるのかについて検討する。

第6回 6月29日(金)

上級日本語学習者の独話におけるフィラーについて -中国人学習者を中心に-
(蔡瑜、M2)

日本語のフィラーはさまざまな場面で使用されており、円滑なコミュニケーションを進めるために重要な役割を担っている。近年、日本語教育において、コミュニケーション能力が重視されることにより、フィラーを指導することの必要性が論じられるようになってきた。本研究では、今後のフィラーの指導法を考えるための基礎的な資料となることを目指し、上級日本語学習者のスピーチにおけるフィラーの使用実態について記述する。今回の発表では、スピーチにおけるフィラーの量的分布に見られる特徴について報告する。

異文化コミュニケーションにおける会話スタイル相違に関して―日•中の学生初対面会話スタイル比較考察―
(韋恩琦、M1)

学習者が第二言語でコミュニケーションするとき、自分の会話スタイルの違いによって、会話の心地好さや心地悪さに影響を与える。そこで、本研究の目的は、まず、量的な分析方法で、中国人日本語学習者の会話スタイルは、日本に滞在の有無、滞在時間の長短、話し相手と自分の年齢や身分の差により、変化があるかという問題を明らかにしたいと考えている。もし変化があれば、どのように変化するかを量的、質的に考察する。それに、具体的な変化の会話スタイルの項目と要因についても明らかにしたい。最後は、会話スタイル変化は定着化か、化石化かについても考察するうえ、今後の日本語教育を示唆する。

第7回 7月6日(金)

大雨により第9回に延期

第8回 7月13日(金)

日本語学習者に対する長崎方言のあり方—終助詞のタイとバイを中心に—
(宋潮、M1)

外国人日本語学習者に向けた一般日本語教育において取り扱われるのは標準語である。しかし 、日本の地方都市で日本語を学習する外国の人々は、日本語によるコミュニケーションの場でか なり方言にさらされており、方言が意志疎通の障害になっていることが少なくない。発表者自身は 長崎での留学期間中に、終助詞のタイとバイが頻繁に使われていることに気づいたが、タイとバ イの意味の違いは抽象的で紛らわしく、長崎方言話者でも説明するのが難しいという。この両形 式の間には伝達態度に違いがある。標準語において「よ」や「ね」のような伝達態度モダリティ の使用がコミュニケーションにおいて重要な役割を果たすことから考えると、長崎方言を指導す る際には、タイ及びバイについての指導が必要だと考える。今回の発表では先行研究のまとめと 研究方法について報告する。

ことばとものの見方に関する考察—言語差異が認識に与える影響—
(平田祐介、M1)

私たちは混沌とした世界を「ことば」によって切り取り、理解している。言い換えれば、一つ の社会には様々な事物をとり結ぶ言語による固有の約束がある。この約束こそ、その社会で使用 されている言語に他とは異なる独自性を与えているものである。つまり、言語を習得することは 、単純化して言えば、その社会における事物の固有の関係づけを学び、当該社会、文化特有の「 ものの見方」を身に付けることだと言える。そこで、今回は主に日本語と英語に見られる言語の 差異が、世界の切り取り方とどのような関係があるのか具体的な事例をもとに考察する。

第9回 7月27日(金)

2限 (10:40-12:10)

映画パラテクストの比較・分析
(村上永里子、M1)

パラテクストとは「テクストに伴う生産物」である。映画が外国に輸出される際、映画の本編であるテクストには多少の内容変更はなされることはあるが、大幅にストーリーなどが変わることはない。しかし、映画のパラテクストである映画のタイトルや宣伝用ポスター、予告編などは各言語文化内で「受け入れられやすい」形に変わることが多々ある。どのような映画パラテクストが大衆に「観たい」と思わせるものになっているのかを、各言語のパラテクストを比較することで明らかにする。最後にはアンケート調査などを通して、それぞれのパラテクストの違いによってテクストの持つ印象も変わるのか、パラテクストが実際に言語文化内で「成功」しているのか(大衆がパラテクストを見て、テクストも観た いと思わせることができたのか)についても検討したい。

文学作品における黒人英語の翻訳方略と規範について
(萩原望、M2)

黒人英語と称される言語変種は民族はもちろん社会階層など文化的・社会的コンテクストに依存することから、黒人英語を翻訳するという行為自体も文化的・社会的コンテクストに依存すると考えられる。こうした言語変種の表象はからかいの道具として使われ、差別を再生産する危険性を孕んでいるものの、翻訳の現場で注意深く検討されてきたとはいえない。本研究の目的は黒人英語が日本語へと翻訳行為を記述し規範を導き出すことである。用例には米国で出版された文学作品を用い、起点テクストと目標テクストの比較から翻訳方略と規範を考察する。

3限 (13:20-14:50)

日本語教育における「たり」の指導のあり方
(陳玉、M1)

並列用法と単独用法を持つ現代日本語「たり」は、日本語学習者に十分に習得されているとはいえず、特に単独用法の「たり」は日本語教育において軽視される傾向にある。しかし、単独用法も学習者に習得させる必要があると思われる。本研究では、先行研究における「たり」に関する記述を確認したうえで、日本語母語話者による単独用法の「たり」の使用実態を調査し、その用法を整理する。そして、日本語教科書における「たり」の扱われ方を調査する。これらの結果をもとに、「たり」の日本語学習者への指導方法を提案する。今回の発表では「たり」の意味・用法を紹介したうえ、並列用法の「たり」から単独用法の「たり」への拡張プロセスを文法化と主観化という視点から考察し、研究方法を検討する。

日本人英語学習者の慣用表現の習得とスピーキング学習に関する動機づけ
(藤永笙子、M1)

現在、入学試験でスピーキング能力の評価を取り入れる大学が多くなってきている。より円滑なコミュニケーションを取るためには、慣用表現の指導が必要であるということは多くの先行研究で明らかにされている。そこで、慣用表現に関する知識と、スピーキング学習における動機づけに焦点を当て、今回は動機づけに関する先行研究と、慣用表現に関する先行研究についてまとめる。

平成30年度後期のスケジュール

日時:火曜日昼休み(12:25-13:10)

場所:L202

第1回 10月23日(火)

発話ストラテジーから見る留学生の意識的・無意識的使用
(宋潮、M1)

山形市方言の終助詞バと富山市方言の終助詞ジャ 、そして、山形市方言の終助詞ジェと富山市方言の終助詞ゼがよく似ていて、大体の場合において置き換えても自然であるが、置き換えられない場合もある。今回は 小西いずみ(2016)「対照方言学的研究のこれまでとこれから」を参照し、置き換えられる場合と置き換えられない場合を分析し、山形市方言の終助詞バ・ジェと富山市方言の終助詞ジャ・ゼの根本的な違いについて発表する。さらに、小西(2016)のモダリティを構成する意味要素の把握のための観点を皆さんとシェアしたい。

第2回 10月30日(火)

中国人日本語学習者による日本語条件表現「ト」と「バ」の習得研究
(劉雨、M1)

中国人日本語学習者にとって習得の難しい日本語の文法項目の一つに、条件表現「ト」・「バ」・「タラ」・「ナラ」この四形式の使い分けがある。その理由はそれぞれの特徴を持つ条件表現はその用法の多彩さと機能が相互にオーバーラップするなどのことが学習の障害になるためと考えられる。本研究ではこの四形式の中の「ト」と「バ」の意味・機能の微妙な違いに着目し、初級・中級・上級中国人日本語学習者はこの二つの形式の本質的な特徴をどのように理解し、それらの微妙なニュアンスの違いの把握の度合いや仕方をどのようにしている、日本語の条件文を中国語に対訳する際に、どんな関連詞を使用しているのかについて明らかにすることである。そして、調査の結果を踏まえて、第一言語の転移や中間言語の発達から、学習順序と母語知識が習得に影響を及ぼすという知見を得た。さらに、本研究では第二言語としての日本語教育指導において投射モデル理論を日本語教育に活用する有効であることを主張する。本日は主に事前研究について発表する。

第3回 11月6日(火)

JSL中国人学習者の国際的志向性、willingness to communicate、進路希望の関係性についての研究
(楊捷、M1)

willingness to communicate(WTC)とは自らコミュニケーションを図ろうとする態度であり、WTCが高ければ高いほどコミュニケーションの頻度も高くなり、最終的に日本語能力につながる。日本で就職しようとする留学生たちは日本の企業から高い日本語能力を要求されていて、日本語能力の低い学生が就職の際に壁にぶつかるはめになるであろう。今回の研究は国際的志向性、WTCと進路希望の関係性を見る研究である。もし国際的志向性が確かにWTCに影響するのであれば、国際的志向性を高めることで、留学生たちのWTCが高められ、日本語が上達できるようになり、最終的に日本での就職を希望すると予測する。今回の研究でWTC理論や留学生の就職になんらかの貢献ができればと考えている。

第4回 11月13日(火)

「言い尽くし」の「から」節
(楊夢琳、M1)

白川(2009)は「けど」類「言いさし」文を「言い尽くし」タイプに分類するが、「から」類を「言い尽くし」タイプと「関係づけ」タイプに分ける。本報告は「言い尽くし」の「から」と「けど」を比較し、共通点と相違点を探る。

第5回 1月15日(火)

親和的関係における否定的評価の日韓研究
(王貝寧、M1)

親しい友人同士の関係では、けなしや冗談、悪態など、相手に対して否定的評価を行うことがあるだろう。親和的な関係での悪口や冗談などが、親近感の表しであり、お互いの友好的な雰囲気の形成に役立つことは、中山(1995)が指摘されている。しかし、親しみを表すつもりで、行ったものであっても、否定的評価の場合は、発話の状況や話し方により、相手のフェイスを傷つける可能性がある。さらに、お互いの表現認識が異なる異文化場面では、ミスコミュニケーションを引き起こす可能性がより高くなるだろう。 中国人学習者を対象とした研究は、管見の限りないので、今回は、親和関係における否定的評価を発話者の話し方と、FTA補償行為との2つの部分に分け、日・韓の話者を対象とした、林(2010)の研究を紹介したい。

第6回 1月22日(火)

モチベーションを高める効果的な教師ストラテジー
(李暁彤、M1)

教室環境において、教師自身が様々なストラテジーを利用し学習者のモチベーションを高めようとしているが、学習者側はそれをどのように受けとめているか、また、国や地域により異なる特徴が見られるが、それでは中国人日本語学習者にどのような特徴があるか。本研究は中国人日本語学習者にとってモチベーションを高める効果的な教師ストラテジーとは何かを明らかにし、その結果からどのような特徴が見られるかを明らかにしたいと考えている。

第7回 1月29日(火)

「シテカラ」の指導のあり方について―学習者の「非用」から考える―
(甯宸、M1)

初級の文法項目のうち、時間的継起を表すことができる項目として、「シテ」「シテカラ」「アト(デ)」「マエ(ニ)」「マデ(ニ)」が挙げられる。上記の表現に関して、日本語教育において主に指導の留意点とされてきたのは、接続の形の問題や、混同を防ぐための説明などである。しかし後者の「混同」、すなわち日本語学習者にとって使い分けの難しい形式の間で選択を誤る場合、正用の形式を使わなかったことによる誤用(=非用)の問題が隠れている(白川2007)。非用の観点から、前述した五つの文法項目について学習者の使用をみると、「シテカラ」の非用が目立っている。本研究では、学習者による「シテカラ」の習得状況、特に「非用」の特徴を明らかにした上、母語話者の使用実態を分析することによって、日本語教育で「シテカラ」の非用に対する適切な対応方法を探りたい。